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仙台高等裁判所秋田支部 昭和57年(ラ)26号 決定 1982年12月06日

抗告人

株式会社南部砕石

右代表者

板垣忠男

右代理人

加賀谷殷

相手方

鹿角信用組合

右代表者

田村平太郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消し、相手方鹿角信用組合の保全処分命令申立を棄却する。」との裁判を求める、というのであり、その理由は別紙「抗告の理由」記載のとおりである。

二抗告理由の第1、2点について

抗告人は、抗告人のなす採石行為は本件各土地につき差押前に設定された採石権の賃借権に基づくものであるから、本件各土地の占有者に過ぎない抗告人に対してなされた本件保全処分は失当として取り消されるべきである旨主張する。

担保権実行の際における売却のための保全処分は債務者又は所有者に対して発せられ、差押前の占有者に対してはこれを発することができないものと解せられる。

本件記録によれば、相手方は本件各土地に対する抵当権を実行すべく秋田地方裁判所大館支部に競売を申し立て、昭和五七年四月七日競売開始決定がなされ、同月八日差押登記がなされたことが認められるところ、抗告人が提出した昭和五七年三月五日付契約書には、抗告人が右差押前の昭和五七年三月五日、本件各土地に対し採石権を有する加賀五郎との間に同人を貸主とし、抗告人を借主とする期間一〇年、賃料月額二〇万円、採石量年間三〇万立方メートル(限度量)なる賃貸借契約を締結した旨の記載があるので、これによれば抗告人はいかにも差押前に本件各土地の採石権を賃借し、この賃借権に基づき採石行為をなすかの如くである。

しかしながら本件記録によれば、

(1)  本件各土地はもと安村善一郎の所有にかかるものであり、安村善一郎は集宮砂利有限会社(当時代表取締役安村善一郎)が昭和五一年三月一五日、全国信用協同組合連合会から一〇〇〇万円を借り受ける際に、本件各土地に抵当権を設定し、その後昭和五四年六月三〇日、相手方は前記連合会から右債権の譲渡を受けるとともに右抵当権の移転を受けたこと、

(2)  安村善一郎は昭和五二年六月八日、集宮砂利有限会社の相手方に対する信用組合取引、手形、小切手債務を担保するため本件各土地につき極度額を五〇〇〇万円とする根抵当権を設定したこと、

(3)  抗告人は昭和五五年一〇月一五日、安村善一郎から本件各土地を買い受け、同月二八日所有権移転登記をし、同五六年三月三一日採石業者の登録をしたこと、

(4)  相手方は、債務者である集宮砂利有限会社からの弁済がないため、前記各抵当権を実行すべく、これに先立つて本件各土地の所有者である抗告人に昭和五七年二月五日到達の書面により抵当権実行の通知をしたこと、

(5)  ところが抗告人は同年三月五日加賀五郎のため本件各土地につき安山岩の採取を目的とし、存続期間一〇年、採石料月額一〇万円とする採石権を設定する(同月九日設定登記)とともに直ちにこれを賃借したとして、前記契約書を作成していること、

(6)  そして抗告人は、同年五月一七日、秋田県知事に対し岩石採取計画認可申請書を提出しているが、岩石採取について権原を証する書面として採石法施行規則上添付が義務づけられている書類には採石権設定登記前における本件各土地の登記簿謄本が添付されているので、抗告人は本件各土地の所有者として右申請をなしたこと、

(7)  なお現況調査の際、抗告人代表者は執行官に対し採石権設定の事実も賃貸借契約締結の事実も陳述しなかつたこと、

以上の各事実が認められる。

右事実、特に抗告人が抵当権実行の通知を受けた直後に本件各土地につき採石権を設定するとともにこれを賃借し、かつ右各土地の所有者として岩石採取計画認可申請に及んでいることからすれば、本件採石権の設定及び賃借権の締結は、抗告人がいわば抵当権者に対する対抗策として加賀五郎と相諮つてなした虚偽仮装の行為と認めるのが相当であり、従つて抗告人は本件各土地の所有者として採取行為をしているものと認められるから、抗告理由の第1、2点は理由がない。

三抗告理由の第3点について

民事執行法第一八八条によつて準用される同法第五五条は、競売不動産の担保価値を確保するため、当該不動産の価格を著しく減少せしめる債務者、所有者の行為又はそのおそれのある行為を禁止するため設けられた規定であるから、右債務者らが通常の用法を越える使用収益によつて当該不動産の価格を著しく減少せしめる場合又はそのような行為をなすおそれがある場合はもとより、債務者らのなす行為そのものが通常の用法に従う使用収益の範囲に属するものであつても、当該不動産の性質、特性、従前の利用関係等に照らしそれが当該不動産の客観的価値を著しく減少させるものである場合又はそのおそれがある場合には、これを禁ずることができるものと解するのが相当である。

本件記録によれば、本件各土地、主に秋田県鹿角市八幡平湯瀬非瀬口一六番五の山林には良質の安山岩が含有されており、その土地のみの評価は計金五二〇万六六〇〇円であるが、右一六番五の山林に含有される岩石は金二八〇〇万円と評価されているので、本件各土地は右岩石を含有することにより担保価値を有し、従つて前記各担保権も右の担保価値に着目して設定されたもの(従つて岩石採取行為によつて担保価値は当然に減少し、かつその復元は不能である。)と認められるところ、抗告人は前記のとおり本件抵当権実行の通知に接するや、第三者と諮つて本件各土地において自己が安んじて採石行為を継続しうる態勢を作出したうえ、差押後の頃から大々的に採石事業に取り掛り、本年一〇月までの採石販売量は一〇万立方メートルに達しており、今後もますます右事業を推進させんと図つている事実が認められるのであるから、右状態の下において抗告人のなす右採取行為は本件各土地の客観的価値を著しく減少させる結果を招来するもの、少くとも本件各土地の価格を著しく減少させるおそれある場合に該当するものといわなければならない。

抗告人の右抗告理由も理由がない。

四よつて本件抗告は理由がないのでこれを棄却すべく、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(伊藤和男 武藤冬士己 武田多喜子)

抗告の理由

一 抗告人は、昭和五七年三月五日加賀五郎より金一〇〇〇万円を借用し、その担保として本件不動産に対し下記採石権設定を為し、その旨昭和五七年三月九日登記を了した。

秋田地方法務局鹿角出張所昭和五七年三月九日受付

第二一〇五号

原因 昭和五七年三月五日設定

存続期間 壱拾年

内容 安山岩採取

採石料 壱月 壱拾万円

支払期 毎月末日

採石権者 能代市富町一六番一七号加賀五郎

二 抗告人は上記加賀五郎から同日採石権の賃借を受けた。その賃貸借契約の内容は、賃料は一ケ月二〇万円とし、その支払方法は一年分前払い、期間は昭和五七年三月五日から一〇年間、採石量は年間三〇万m3を限度とするものである。

抗告人は上記賃借権に基づき現在採石しているものであり、所有権に基づき採石しているものではない。

三 よつて、抗告人の採石行為は、採石権賃借により通常の用法による使用収益に過ぎないから、若し上記保全処分決定が適法とされるならば、何時競売が確定するか、不確定のまま採石権者は権利の行使が不能となるのでその損害は著しいものがある。

以上の理由により、相手方の申立に対する秋田地方裁判所大館支部の保全処分決定は違法であつて、その取消を免れない。

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